アニメ「図書館戦争」が完全に自由民権運動だった話【その1】

図書館戦争」という作品をご存知でしょうか?

原作小説の初刊は2006年発刊なので約10年前の作品になりますが、シリーズ累計600万部を売り上げるベストセラーで、漫画化やアニメ化、映画化もされ、昨年2015年に、岡田准一と榮倉奈々主演の二作目の映画「図書館戦争-THE LAST MISSION-」が公開されたのは記憶に新しいと思います。

私は二作目の映画の予告編を観たことがある程度だったのですが、最近、複数の若者からこの作品の話を聞き、この作品のテーマとなっている「図書館の自由に関する宣言」(※実在する日本図書館協会の綱領)に興味を持ったこともあり、アニメの「図書館戦争」をひととおり観てみました。

すると、なんということでしょう。どう考えても完全に自由民権運動の話だったのです。ネットで調べてみても、この視点での解説は無かったので、この作品に隠されたメッセージを私なりに解釈し、2回に分けて述べていきたいと思います。

※なお、原作の小説は読めていないので、あくまでアニメ作品全12話に限っての解釈という点をご了承ください。

「統制を強める中央政府」VS「自治を求める地方政府」の武力闘争という構image

第一に特筆すべきは、この作品の世界観が、明治初期に自由民権運動を展開した民権家たちのそれと非常に近いという点です。
それは、「統制を強める中央政府(明治政府)」VS「自治を求める地方政府(民権結社)」と表現することができるでしょう。

さっそく、作品中の解説とWikipediaの記述を参考に、「図書館戦争」の各種設定を列挙していきます。

●1988年、公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を規制するための「メディア良化法」が制定される。

s_image7(出典:「図書館戦争」図書館戦争制作委員会/Hulu)

●メディアへの監視権を持つメディア良化委員会が発足し、その執行機関である良化特務機関(メディア良化隊)による検閲が行われ、執行が妨害される際に武力行使が行われる。

s_image3(出典:「図書館戦争」図書館戦争制作委員会/Hulu)

●時を同じくして、図書館法に則る公共図書館は、実質的検閲の強行に対し、「図書館の自由に関する宣言」を元に「図書館の自由法(図書館法第4章)」を制定。

s_image8(出典:「図書館戦争」図書館戦争制作委員会/Hulu)

●2004年、地方自治体に所属する図書館は、同法を根拠として図書隊という防衛組織を設立し、中央政府と対立。全国10地区に図書隊基地を設置。所属人員数は約3万人。

s_image6(出典:「図書館戦争」図書館戦争制作委員会/Hulu)

●国家機関である良化特務機関に対し、図書隊は広域地方行政機関としての性質を持ち、独自の人事、予算管理を行う。
●各自治体では目的税として図書館税を導入。
●図書隊及び良化特務機関は、戦闘行為を行っても第三者の生存権や財産権を侵さない限りは、たとえ死傷者が出たとしても司法が介入することはない。

 

ここで、自由民権運動について少し振り返っておきましょう。

自由民権運動に対する歴史的評価はいくつかありますが、私としては、自由民権運動研究の第一人者である安在邦夫・早稲田大学名誉教授が最も的確に表現されていると思います。

憲法制定・国会開設・地租軽減・地方自治・条約改正などを主目標に、民衆を含む多様な国民諸階層が参加、「立憲制国家」(三権分立の統治機構と自由・民権・人権など近代的諸価値が憲法で保障された国家)の構築を目指して闘った政治・社会運動とする見解。「複合革命論」的な見方を採っている。 ―『自由民権運動史への招待』安在邦夫著

教科書では「自由民権運動=板垣退助」をセットで覚えるだけですが、実際には「民衆を含む多様な国民諸階層が参加」しており、今わかっているだけで、全国に2,116社もの民権結社(読書会や学習会を基盤とした学習結社)が存在していたそうです。

どれくらいの規模感なのかというと、仮に1社に10人だとしても2万人、20人なら4万人ですから、少なく見積もっても2万~4万人が自由民権運動に参画していたとすると、ちょうど「図書隊」の所属人員数3万人と近い数字といえそうです。

これらの民権結社の中で一際異彩を放っているのが、東京都西多摩郡五日市町(現あきる野市)で発足した「五日市学芸懇談会」と「五日市学術討論会」という結社です。「五日市学芸懇談会」についてはこのような話があります。

規則(中略)第二条に「日本現今の政治法律に関する事項を講談論議せず」と明記している。政治法律に関することを論議するために結社を発足させておきながら、あえて「せず」と記しているのは、やはり集会条例(明治13年4月公布)などの弾圧条例を恐れているからである。 ―『自由民権と近代社会』新井勝紘編

当時の日本は、「図書館戦争」の「メディア良化法」は可愛いもので、集会条例の他、讒謗律や新聞紙条例(いずれも明治8年6月公布)により露骨に言論の自由が制限されていたにも関わらず、民権家たちは、それらの弾圧に屈さず力強く自由と民主主義を追い求めていた姿が伝わってきます。

また「五日市学術討論会」においては、

簡単には結論がでそうもないテーマや、古来から種々の説があるような難解なテーマをわざわざ設定し、それを徹底的に当議論定するところまで突っ込むのである。中途半端な結論では終わらせない。(中略)まさに今日でいうディベートをやるのである。 ―『自由民権と近代社会』新井勝紘編

というように、かなりレベルの高い議論を行っていたようです。

明治13年の第二回国会期成同盟大会以降盛り上がりを見せる自主的憲法作り(私擬憲法起草)のブームの中で、現在の「日本国憲法」と比較しても引けを取らない民主的な内容を含んだ憲法草案であるいわゆる「五日市憲法草案」はこの二つの結社を中心に検討が進められ、千葉卓三郎によって起草されました。

前置きが長くなりましたが、この「五日市憲法草案」にこそ「自治を求める地方政府」の姿が明確に刻まれているのです。

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image9(出典:あきる野市中央図書館デジタルアーカイブ

該当箇所を現代語訳してみると次の通りです。

府県の自治は各地の風俗習例によるものであるから、絶対に干渉や妨害をしてはならない。その権域は国会といえども侵すことはできない。

地方自治権は国会といえども侵してはならない、絶対的不可侵規定ともいえる発想です。

さらにもう一つ。

「五日市憲法草案」の起草と同時期に、若干25歳の植木枝盛という青年が起草した「東洋大日本国国憲按」という私擬憲法には次のように記されています。

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image12(出典:国立国会図書館 史料にみる日本の近代

第七十条 政府がこの憲法に背くときは、日本人民は政府に従わなくてよい。
第七十一条 政府や役人が抑圧的な行為をするときは、日本人民はそれらを排除することができる。政府が威力をもって勝手気ままに横暴で残虐な行為をあくまでもなすときは、日本人民は武器をもって政府に対抗することができる
第七十二条 政府がわがままにこの憲法に背き、勝手に人民の自由の権利を害し、日本国の趣旨を裏切るときは、日本国民はその政府を打倒して新たな政府を設けることができる。
植木枝盛「東洋大日本国国憲按」(1881(明治14)年) 現代語訳:山本泰弘

人民の武器携帯容認という規定とともに、抵抗権、革命権といえるような条文からは、国家権力と緊張感を持って対峙していた民権家たちの魂というか、覚悟のようなものを感じとることができます。このような私擬憲法は、保安条例(明治20年公布)の拡大解釈により、私擬憲法を検討すること自体が禁じられてしまうまでに全国で93種作られたそうです。

このように、自由民権運動期の日本においては、まさに「図書館戦争」における「図書隊」さながらに自分たちの自由を守るために武器を持って戦おうとしていた(戦うべきだと思っていた)日本人が数多くいたという事を私たちは思い出す必要があるのではないでしょうか

今回は、「図書館戦争」の設定面を軸に、自由民権運動におけるアウトプットの一つである代表的な私擬憲法の条文から読み取れる世界観との共通点を述べてきました。

次回は、より細かい点についてアニメ「図書館戦争」がどう考えても自由民権運動の話といえる理由を述べていきたいと思います。